「やりがいある仕事」と「給料が良い仕事」、選ぶならどっち?
質問内容
大学4年生の男です。内定を2社からもらっており、1社は給料が高いけれど仕事内容にあまり興味が持てない会社、もう1社はやりがいがありそうだけど給料が低めの会社です。友人には「若いうちは金より経験だ」と言われますが、奨学金の返済もあるし、現実的にお金も大事です。SNSでは「好きなことを仕事にすべき」という意見と「やりがい搾取に気をつけろ」という意見が両方流れてきて、余計に迷います。30歳、40歳になったとき後悔しない選択をしたいのですが、やりがいとお金、どちらを優先すべきでしょうか?
この記事のポイント
- やりがいと給料は二者択一ではなく、キャリアの中で両立可能になるタイミングがある
- 初任給の差よりも「5年後・10年後の年収カーブ」に注目する方が賢明
- 「やりがい」の正体を細かく分解すると、より冷静な判断ができるようになる
お金とやりがい、本当に天秤にかけるものなのか
この悩みに直面する就活生は非常に多いですが、まず前提そのものを見直す必要があります。「やりがい vs 給料」という二項対立の構図は、実は就活時点でだけ強く成立するものであり、10年、20年というキャリア全体のスパンで見ると、両方を手に入れている人は決して珍しくありません。
国税庁の民間給与実態統計調査によると、20代前半の平均年収は約270万円ですが、30代前半では約400万円、40代前半では約500万円と年齢とともに上昇していきます。さらに重要なのは、初任給の差は企業間で月額数万円程度であっても、30代以降は業界特性、職種の専門性、そして個人の実力やポジションによって年収差が数百万円単位に開いていくという事実です。つまり、就活時点で「給料が良い」と感じた会社が、10年後もあなたにとって最も年収の高い選択肢であるとは限らないのです。
一方、「やりがい」についても冷静な整理が必要です。心理学者デシとライアンの自己決定理論では、人間の内発的動機づけは「自律性(自分で決められる感覚)」「有能感(スキルが向上している実感)」「関係性(周囲との良好なつながり)」の3つの要素で構成されるとされています。「好きなことができる」だけがやりがいではなく、「自分で判断し行動できる」「自分の成長を感じられる」「信頼できる仲間と働けている」こともやりがいの重要な源泉なのです。この視点を持つと、一見やりがいがなさそうに見える仕事にも、実は豊かなやりがいが潜んでいる可能性に気づけます。
入社後の長期的な視点を加えると、最初の2〜3年は「やりがいを感じにくい時期」であることが非常に多いです。どんな仕事でも、最初は覚えることが膨大で、ミスも多く、楽しさを味わう余裕がありません。本当にその仕事の面白さがわかるのは、一定のスキルが身について一人前として動けるようになる3〜5年目以降であることが多いのです。だからこそ、就活段階で「やりがいがありそう」と感じた直感だけに頼って判断するのは、思いのほかリスクがあります。
やりがいとお金、それぞれの道を歩んだ人たちの声
Aさん(文系・女性・国公立大・出版関連企業 入社6年目)
Aさんは子どもの頃から本が大好きで、「本に関わる仕事がしたい」という強い思いを持って就活に臨みました。内定を得た出版関連企業の初任給は月額20万円を下回る水準で、同期の中では最も低いグループでしたが、「好きなことに関われるなら多少の我慢は平気」と納得して入社しました。
「1〜2年目は確かに楽しかったです。本に囲まれた職場で、著者や編集者と一緒に作品を世に送り出す過程に携われることに充実感がありました。ただ、3年目あたりから同期との年収差が気になり始めたんです。大学の友人たちがボーナスで海外旅行に行ったり新車を購入したりしている一方で、私は奨学金の返済と家賃で毎月ギリギリの生活。趣味に使えるお金もほとんどなくて、『やりがいだけでは生活の質は保てない』と身をもって痛感しました」。
転機が訪れたのは4年目でした。念願の編集部に異動となり、自ら企画を提案して通すことができたのです。その企画がヒットし、会社の売上にも目に見える貢献を果たしたことで、ボーナスの査定が大きく上がりました。「6年目の今は入社時から年収が約150万円上がっています。最初の3年間は正直苦しかったですが、スキルと実績を積み上げた結果、やりがいと収入が一致するようになりました。振り返ると、最初の苦しい時期を乗り越えられたのは、仕事そのものが好きだったからだと思います」。
Bさん(理系・男性・早慶・金融系企業 入社5年目)
Bさんは奨学金の返済が月3万円あったこともあり、「まず現実的にお金が必要」と考えて初任給の高い金融系企業を選びました。1年目の年収は同期の中でもトップクラス。引っ越し費用も貯金もすぐに確保でき、生活面での余裕はありました。
「でも、毎朝起きるのが本当に辛かった。目覚ましが鳴るたびに憂鬱な気持ちになるんです。数字を追い続ける日々の中で、『この仕事の何が面白いんだろう』と自問自答する毎日でした。周りの同僚は楽しそうに見えるのに、自分だけが取り残されている感覚。3年目には日曜日の夕方になると翌日の仕事のことで胸が締め付けられるようになり、心療内科を受診しました。診断は軽度の適応障害でした」。
4年目に社内の新規事業開発部門への異動を願い出て、認められました。「年収は以前の部門より若干下がりましたが、自分でサービスを構想して形にしていくプロセスにやりがいを感じています。金融の知識や数字に強い点が、事業の収支計画を立てる上で大きなアドバンテージになっている。今振り返ると、お金だけを基準に選んだ最初の3年間は、自分自身に嘘をつき続けていた期間でした。ただ、そこで培った金融リテラシーが今の仕事に直結しているのも事実で、遠回りではあったけれど無駄な時間ではなかったと思えるようになりました」。
Cさん(文系・男性・地方私大・IT企業営業 入社4年目)
Cさんは就活時、やりがいにも給料にも明確なこだわりはありませんでした。「IT業界は今後も伸びそうだし、営業職ならつぶしがきくだろう」という程度の動機で、中規模のIT企業に入社しました。初任給は業界平均レベルで、特別高くも低くもなかったそうです。
「正直なところ、入社してしばらくはやりがいなんてまったく感じませんでした。知識のないIT製品について必死に勉強し、お客様に説明するのが精一杯で、仕事の面白さを味わう余裕はゼロ。ところが入社2年目に担当した法人のお客様から、『Cさんが提案してくれたシステムのおかげで、月の残業時間が20時間も減りました。本当にありがとうございます』と言われたとき、初めて自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できたんです。その瞬間、仕事が楽しいと思えました」。
3年目には法人営業チームのリーダーに抜擢され、4名のメンバーを率いてチームの年間売上を前年比130%に伸ばしました。成果が報酬にも反映され、年収は入社時から約100万円アップ。「やりがいって、入社前に頭で想像するものと、入社後に身体で感じるものはまったく別物だと思います。僕の場合、やりがいは後から見つかりました。もし就活時に『この仕事にはやりがいがなさそうだ』と決めつけて選択肢から外していたら、今のこの充実感には出会えていなかったかもしれません」。
後悔しないための判断軸
「最低限必要な生活費」を具体的な数字で算出してみてください。 奨学金の返済額、想定される家賃、食費、光熱費、通信費、交際費など、月々いくら必要かを具体的に洗い出すと、「最低限クリアすべき年収ライン」が明確になります。このラインを下回る選択肢は、どれだけやりがいがあったとしても、経済的なストレスから長続きしないリスクがあります。
「初任給」だけでなく「5年後の年収カーブ」を比較することをおすすめします。 初任給の差は月額で数万円でも、昇給ペースや役職手当、インセンティブ制度を含めた中期的な収入の推移は企業によって大きく異なります。初任給が低くても5年後には逆転するケースは珍しくありません。説明会やOB訪問で「入社5年目の社員の平均的な年収レンジ」を聞いてみるのも有効です。
「やりがい」を抽象的なまま放置せず、具体的に分解して言語化してみましょう。 「好きな業界だから」「人の役に立てそうだから」「専門スキルが身につきそうだから」「裁量を持って働けそうだから」など、やりがいの中身を細分化すると、意外にも他の選択肢でも同じ要素が満たされる可能性に気づけるかもしれません。
最後の判断基準として、「辞めたくなったとき、どちらの方が踏ん張れるか」を自分に問いかけてみてください。 どんな仕事にも必ず辛い時期はやってきます。そのとき「お金のため、生活のためと割り切って頑張れる」タイプなのか、「この仕事が好きだから、意味があるからと思い直して頑張れる」タイプなのか。自分の性格や過去の経験を踏まえて、より踏ん張れそうな方を選ぶのが現実的な判断です。
陥りやすい思い違い
「やりがい搾取」という言葉が広まったことで、やりがいを大切にすること自体に後ろめたさを感じる就活生が増えていますが、これは行き過ぎた反応です。やりがいを重視すること自体は健全なことであり、問題があるのは企業側がやりがいを理由に不当な低賃金や過重労働を正当化するケースです。やりがいと適正な報酬は対立するものではなく、本来は両立すべきものです。
また、「若いうちは苦労を買ってでもすべき」という昔ながらの精神論にも注意が必要です。苦労に価値があるのは、それが将来のスキルアップやキャリア形成につながる場合に限られます。何の学びにもつながらない不毛な苦労は、ただの消耗に過ぎません。
まとめ
やりがいと給料は、キャリアという長い時間軸で見れば二者択一ではありません。スキルと実績を着実に積み上げていくことで、やりがいのある仕事が相応の報酬をもたらすようになるタイミングが訪れます。就活時点での最善の選択は、自分の生活を支えられる最低限の収入ラインを確保した上で、長期的に力がつき市場価値が高まる環境を選ぶことです。目先の数字だけに振り回されず、5年後・10年後の自分の姿を想像しながら、じっくりと選んでみてください。
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