「とりあえず大手」で入社した人の10年後はどうなった?
質問内容
大学3年の女です。正直なところ、やりたいことが見つからないまま就活をしています。キャリアセンターでは「軸を持て」と言われますが、ピンとくるものがありません。そんな中、親や親戚は「とりあえず名前の知れた大手に入っておけば間違いない」と口を揃えて言います。友人の中にも「大手ならどこでもいい」という人が結構いて、自分もそれでいいのかなと思いかけています。でも一方で、「とりあえず大手に入った人は後悔する」という記事も見かけて不安です。実際に「とりあえず大手」で入社した人の10年後はどうなっているのでしょうか?
この記事のポイント
- 「とりあえず大手」は必ずしも失敗ではないが、入社後の主体性が10年後の明暗を大きく分ける
- 大手企業の10年後は「安定した中堅社員」と「キャリア迷子」の二極化傾向がある
- 入社理由が曖昧でも、入社後に自分で意味づけできた人のキャリアは好転しやすい
「とりあえず大手」を選んだ世代は10年後どうなっているか
「とりあえず大手」という選択は、日本の就活文化において非常にポピュラーな意思決定パターンです。就活生を対象にした大規模調査を見ると、企業選びの基準として「企業の知名度や規模」を挙げる学生は毎年上位にランクインし続けています。特にやりたいことが明確でない学生にとって、「大手企業に入れば少なくとも大きなハズレはないだろう」という判断は、ある意味合理的とも言えます。
では「とりあえず大手」で入社した人は、10年後にどうなっているのか。民間の人材会社が実施した追跡調査や、複数のキャリア研究を総合すると、概ね3つのグループに分かれる傾向が見えてきます。
第1グループ(約4割)は、入社後に自分なりのやりがいや目標を見出し、大手企業の恵まれた環境を活用して着実にキャリアを構築できた人たちです。研修制度や異動制度をフルに活用し、30代前半で管理職候補やプロジェクトリーダーとして活躍しています。このグループに共通するのは、「入社後に主体的に動いた」という点です。
第2グループ(約3〜4割)は、特に大きな不満もなく淡々と働き続けている層です。年収は安定しており、生活に困ることはありませんが、「自分は結局何がやりたいのか」「このまま同じ会社にいて良いのか」というモヤモヤを心のどこかに抱えたまま30代を迎えています。
第3グループ(約2〜3割)は、入社後にミスマッチを感じ、転職を経験した人たちです。転職によってキャリアが好転した人もいれば、「もっと就活時点でよく考えておけば」と後悔を口にする人もいます。
長期的な視点で見逃せないのは、大手企業の雇用環境そのものが大きく変わりつつあるということです。かつて「大手に入れば定年まで安泰」と言われた時代の常識は、過去10年間で急速に崩れています。早期退職の募集や事業売却、組織再編は大手企業でも日常的に行われるようになり、「年功序列・終身雇用」を前提としたキャリア設計はますます通用しにくくなっています。「とりあえず大手に入って、あとは会社に任せておけばいい」という受け身の姿勢では、10年後に厳しい現実に直面する可能性があるのです。
10年の歳月を経た3人のリアルな軌跡
Aさん(文系・男性・旧帝大・大手インフラ企業 入社10年目 係長)
Aさんは「特にやりたいことがなかった」ため、「潰れない会社」という基準で大手インフラ企業を選びました。事業内容にも業界にも特段の興味はなく、「安定しているから」という消極的な理由での入社でした。
配属先は地方の現場事務所。最初の3年間は工事の進捗管理や書類作成などの地道な業務が中心でした。「正直、最初は退屈でした。大学時代の友人が東京でキラキラしたオフィスで働いている話を聞くたびに、自分の選択を後悔したものです」。
しかし入社2年目の秋、大型台風による被災地域の復旧プロジェクトに動員されたことが転機になりました。「寝る間もなく対応に追われる中で、自分たちの仕事がこの地域の人々のライフラインを支えているという実感が初めて湧いたんです。復旧工事が完了したとき、地域の方々から『ありがとう』と声をかけていただいて、不覚にも涙が出ました」。
5年目に本社の企画部門に異動し、新規事業のプランニングに関わるようになりました。「現場で得た実務感覚が、企画部門での仕事に大きく活きています。机上の空論ではなく、現場で実現可能なプランを立てられるのは、あの3年間のおかげです」。10年目の現在は係長として7名のチームを率い、年収は入社時から300万円以上アップ。「とりあえずで入った会社ですが、10年かけて本物のやりがいを見つけられました。ただ、もし最初の3年間で辞めていたら、この喜びには出会えなかったでしょう。入社理由が曖昧でも、粘り続けることで道は開けると実感しています」。
Bさん(理系・女性・MARCH・大手電機メーカー → 7年目に転職)
Bさんは「理系だからメーカーかな」という程度の考えで大手電機メーカーに入社。品質保証部門に配属され、毎日決められた手順に従って製品のテストデータを検証する業務が中心でした。
「3年目くらいまでは何も考えずに言われた通りの仕事をこなしていました。残業も少ないし、人間関係も悪くない。でも仕事が好きかと聞かれたら、好きでもない。ただ『嫌ではない』という程度の感覚で日々が過ぎていきました」。
5年目に同期の社員が社内公募制度を使って海外赴任を勝ち取ったと聞き、大きな焦りを感じたそうです。「自分はこの5年間で何を積み上げてきたのだろうと振り返ったとき、胸を張って言えるスキルが一つもないことに気づいて愕然としました。品質保証の業務は大切な仕事ですが、それを『自分の武器』として磨く意識がなかったんです」。
6年目から危機感を持って社内の資格取得支援制度を活用し、統計解析とデータサイエンスの勉強を開始。しかし「もっと早く始めていれば」という後悔は大きく、7年目に専門性を活かせるIT企業のデータアナリスト職に転職を決断しました。「大手にいた7年間で一番後悔しているのは、会社の安定した環境に甘えて、自分から動くことを怠ったことです。大手企業は守ってくれる分、自分で考えなくても日々が流れていく。それが落とし穴でした。ただ、品質保証で徹底的に叩き込まれた『データの正確性へのこだわり』は、今のデータアナリストの仕事でも最大の強みになっています。あの7年間も無駄ではなかったと、転職してから気づきました」。
Cさん(文系・男性・日東駒専・大手小売企業 入社10年目 店長)
Cさんは「大手企業なら親も安心するだろう」という理由で、全国展開する大手小売企業に入社しました。配属は地方の店舗。毎日の業務は商品の陳列、レジ対応、在庫管理がメインでした。
「最初の印象は『大卒でやる仕事がこれ?』というものでした。正直、大学で学んだことが何一つ活かせない気がして、友人との飲み会で仕事の話を聞かれるのが本当に嫌でした。3年間は辞めたいという気持ちとずっと戦っていました」。
4年目に副店長に昇格したことが、Cさんの転換点でした。店の売場レイアウトを自分の判断で変更できる権限を初めて持ちました。「季節に合わせた売場づくりを工夫したところ、担当フロアの月間売上が前年比115%に跳ね上がったんです。数字で結果が出た瞬間、『自分のアイデアでビジネスが動く』という感覚を初めて味わいました。それまで3年間感じていた退屈さが一気に消え去りました」。
7年目に店長に昇格。パート・アルバイトを含む約50名のスタッフをマネジメントする立場になりました。「採用から教育、シフト管理、売上計画、地域イベントの企画まで、店長は小さな会社の経営者のような仕事です。P/LやB/Sの数字を毎月追いかけ、改善策を考え、実行する。これほどやりがいのある仕事だとは、入社前には想像もつきませんでした」。10年目の現在、年収は入社時の約1.5倍に。「とりあえず大手で入ったことに後悔はありません。ただ、最初の3年間を"消化試合"のように過ごしてしまったことだけは反省しています。もっと早い段階で目の前の仕事に本気になっていたら、もっと早くこの面白さに気づけていたはずです」。
「とりあえず大手」を意味あるキャリアに変える方法
入社後の最初の1年で「この会社で何を学び取るか」を自分で決めてください。 入社動機が曖昧であっても、入ってからの目標設定で軌道修正は十分に可能です。「最初の3年でこのスキルを習得する」「2年目までにこの資格を取る」など、具体的なマイルストーンを置くだけで、日々の仕事への姿勢が劇的に変わります。
大手企業ならではの社内制度を、積極的に調べて活用しましょう。 充実した研修プログラム、社内公募制度、海外赴任の機会、資格取得支援制度、社内ベンチャー制度など、大手企業には豊富なキャリア支援の仕組みが整っています。しかしそのほとんどは、自分から手を挙げなければ活用できないものです。受け身でいると、こうした制度の存在すら知らないまま数年が過ぎてしまいます。
社外のネットワークを意識的に構築する習慣をつけてください。 大手企業にいると、社内の人間関係や評価体系が世界の全てのように感じがちです。異業種交流会や社外の勉強会、大学時代の友人との定期的な情報交換を通じて、「外の世界」を知る機会を持つことが、自分の市場価値や立ち位置を客観的に把握する助けになります。
「転職すべきかどうか」は入社3年目以降にじっくり考えれば十分です。 入社前から出口戦略を練る必要はありません。まずは今いる環境で全力を出し切り、その結果として「もっと別の環境で力を発揮したい」と思えたなら、その時に転職を検討する。この順番が健全なキャリア形成の基本です。
意外と知られていない盲点
「大手企業=将来も安泰」という前提は、今後ますます不確実なものになっていきます。AIの急速な発展やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、大手企業でも従来型の事業モデルが通用しなくなるケースが増えています。「大手に入れば一生食いっぱぐれない」という安心感だけを頼りにキャリアを設計すると、10年後に想定外の状況に立たされる可能性は否定できません。
また、転職市場において「大手企業出身」という看板が通用するのは、あくまで「その大手企業で何を経験し、何を成し遂げたか」という中身とセットの場合に限ります。「大手企業に10年いました」だけでは、市場価値としてはほとんど評価されない時代になりつつあります。
まとめ
「とりあえず大手」で入社した人の10年後は、入社後にどれだけ主体的に行動できたかによって大きく異なります。大手企業の安定した環境と豊富なリソースを活かして着実に成長できた人もいれば、その安定に無意識に甘えてキャリアの方向性を見失った人もいます。10年後の自分を分けるのは、入社した会社の名前ではなく、入社してからの自分自身の姿勢です。「とりあえず」で始まったキャリアであっても、途中から本気のスイッチが入れば、かけがえのない10年間に変わります。
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